後編稚内を訪ねる

BBHFとして、初めて旅する稚内。
リアルな稚内を3人と一緒に振り返りながら、稚内でWOW!な出会いを見つけよう。

BBHF MEMBER

尾崎雄貴
(Vo,G)
尾崎和樹
(Dr)
DAIKI
(G)

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あの頃のままの、
景色があった。

雄貴さんと和樹さんは今回、何年ぶりの稚内だったのでしょうか?

雄貴:5年ぶりですね。

和樹:僕は3年ぶりでした。稚内の実家に戻ってきても基本インドア派で、ほとんど外出することがなくて、今回いろいろと巡って懐かしかったです。

DAIKIさんは初めての稚内ですね。いかがでしたか?

DAIKI:僕が生まれ育った雨竜町や滝川市は内陸部の街だったので、海を見渡せる景色に非日常的な感覚を覚えました。一方で、商店街や街全体の静かな雰囲気は地元と似ていて、初めて訪れたのに僕もどこか懐かしい気持ちになりました。

今回の旅では、稚内港北防波堤ドームや開基百年記念塔、白い道など、前編「稚内の記憶を巡る」で挙げていただいたスポットの一部を巡りました。

雄貴:印象深かったのは、「開基百年記念塔」1かな。旅した場所の中で一番の強風が吹いていて、“稚内らしさ”を最も身体で感じることができたので。

DAIKI:あれはすごかったね。飛ばされるかと思った(笑)。

雄貴:中学時代、みんな下を見ながら前のめりになって坂を歩いていた記憶があったけど、リアルな風を体感して、そりゃそうなるよなって思ったよね。

和樹:僕もここまで強かったんだって改めて実感しました(笑)。

雄貴:あと、「北防波堤ドーム」2も住んでいたころはそこまで考えて見てなかったけど、かつてあそこに駅があった歴史を知ってから見ると、鉄道が通っていた様子を想像できたりして、すごく感動的に写りました。なにより僕は風景が変わってなかったというのが、一番うれしかったなぁ。実際に住んでいたときから10年以上も経っているから、街の景色が大きく変わっているかと思ったけど、百年記念塔からの景色も、稚内南中学校の坂の上からの景色も、僕の中で大事に思っていた景色は全く変わってなかった。それだけで、すごく心が洗われました。

1開基百年記念塔[WOW 20]

稚内公園の丘陵上にある記念塔。雄貴さんはこの塔を管制塔に見立てて曲を作り、2011年にはその曲をモチーフに稚内もロケ地になった映画「管制塔」(監督:三木孝浩、主演:山﨑賢人、橋本愛)が製作された。

ACCESS: JR稚内駅からクルマで約10分

2稚内港北防波堤ドーム[WOW 14]

北海道遺産にも選定されている、稚内の強風と高波を防ぐために考案された防波施設。Galileo-Galilei時代の楽曲「僕から君へ」のMV撮影にも使われており、映画「管制塔」のロケ地にもなっている。

ACCESS: JR稚内駅から歩いて約5分

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楽曲への理解も深まる、
稚内の旅。

和樹さんはいかがですか?

和樹:僕は「童夢温泉」3が一番、自分の記憶を呼び起こしてくれましたね。最後に行ったのは中学1年生のとき、おばあちゃんと一緒に行ったのですが、入口であの温泉独特の匂いがした瞬間に、当時のことを一気に思い出しました。それと同時に、自分が想像していたよりも施設をひと回り小さく感じたりもして。すっかり大人になっちゃったことにも気付かされました。

雄貴:匂いでいうなら、「ノシャップ岬」4の匂いも懐かしかったよね。

和樹:昆布の匂いだね。

雄貴:そう。ハワイやグアムなどの南国の海とは全く違う匂い。打ち上げられた昆布の出汁の匂いというか、あの匂いが好きだったんだよね。

DAIKIさんはどこが印象深かったですか?

DAIKI:僕はどこも初めて行く場所だったので、すべて面白かったし、いい街だなって思いました。その中でも特に印象深かったのは、雄貴くんと和樹くんがここで生まれ育ったことを肌で感じられたことですね。それぞれのスポットはもちろん、移動中の車中でも前に住んでいた家を教えてもらったり、ここでこういうことがあったんだよって話してくれて、その度に2人の姿が脳裏に浮かんできて、貴重な体験ができたなって思います。Galileo Galilei時代から雄貴くんの曲をずっと聴いてきて、一緒に演奏してきた中で触れてきた言葉や空気感も、ここに来て今まで以上に理解できたように思います。なにより、そう感じさせてくれる場所が今も街中に残っているというのも素敵ですよね。

3稚内温泉「童夢」[WOW 29]

市民の憩いの場にもなっている日帰り専用温泉。11種類の浴槽でバリエーション豊かな湯を楽しめ、日本最北の温泉として「入湯証明書」も発行している。

ACCESS: JR稚内駅からクルマで約15分
JR稚内駅からバス(緑町線)で約20分「稚内温泉前」下車

4ノシャップ岬[WOW 24]

利尻島や礼文島、サハリンの島影を一望できる、夕日の美しい場所としても人気の景勝地。周辺には北海道最古のプラネタリウムがある青少年科学館やノシャップ寒流水族館などもある。

ACCESS: JR稚内駅からクルマで約10分
JR稚内駅からバス(市内線)で約10分「ノシャップ」下車、 歩いて約5分

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思い出のラーメン、
初めてのタコしゃぶ。

食事はいかがでしたか?

DAIKI:稚内ラーメン5が、おいしかったですね。僕は普段ラーメンを積極的に食べる方じゃないんですが、「DAIKIくんも絶対好きだよ」と言ってくれていた通り、ペロッと完食しちゃいました。

雄貴:気に入ってもらえるか心配で、食べながらずっとDAIKIくんを凝視してました(笑)。

DAIKI:昆布のだしが効いたラーメンで、すごく食べやすかったよ。あと、海産物はどれもおいしくて、市場が身近にある環境もうらやましく感じました。

雄貴:「副港市場」6は、安くておいしい海産物がそろっているので、もっとたくさんの人に知ってもらいたいよね。僕は今回、「オレンジ通り」7にある居酒屋8「タコしゃぶ」9を初めて食べたんですけど、おいしくてびっくりしました。タコはお刺身にして食べるのが定番だったので、家で食べる機会がなかったし、正直に言うと「なんでしゃぶしゃぶ?」と思っていたんですけど、あんなにおいしいとは。あれは再発見でしたね。

和樹:ポン酢もおいしかったね。普通のポン酢よりも昆布が濃縮された味がして、タコとの相性が抜群でした。

雄貴:ホッケもいっぱい食べましたね。そういえば稚内に住んでいたときには、家族で1匹じゃなくて、一人ひとりに1匹ずつホッケが並んでいたのを思い出しました。そのくらい稚内ではホッケがポピュラーで、脂のりもすごいので、稚内に来たらぜひ食べてもらいたいですね。

5稚内のラーメン[WOW 43]

地元の昆布やウニ、カニ、ホタテなど稚内には魚介をふんだんに使ったラーメンを提供しているお店が多くあります。シンプルながら旨みが深い稚内ラーメン。グルメ雑誌等でも紹介される実力派です。

6稚内副港市場[WOW 16]

海産物をメインに道北の土産品がそろう複合商業施設。海鮮丼や稚内グルメをリーズナブルに楽しめるレストランもあり、併設する稚内市樺太記念館では樺太(現サハリン)と稚内の貴重な資料や映像にふれることができる。

7オレンジ通り

JR南稚内駅から伸びる飲食店街。漁獲量日本一のホッケやミズダコをはじめ、稚内の新鮮な海産物を味わえる居酒屋が多く建ち並ぶ。北海道発祥の居酒屋チェーン「つぼ八」もあり、尾崎兄弟もこの通りにある「南稚内店」をよく利用していたそう。

ACCESS: JR稚内駅からクルマで約10分

8稚内の居酒屋[WOW 40]

日本海とオホーツク海の2つの海に面している稚内は、日本でも有数の魚介の宝庫。漁獲量日本一のホッケやミズダコをはじめ、とれたて新鮮な海の幸が豊富で、居酒屋のレベルも高い。

9タコしゃぶ[WOW 38]

ミズダコの漁獲量日本一を誇る稚内市。タコしゃぶは、とれたて新鮮なミズダコを薄くスライスし、しゃぶしゃぶで味わうご当地グルメで、タコのコリコリとした食感と噛むほどに広がる旨みと甘みがクセになる。

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新作は、稚内への
思いが詰まっている。

今回の稚内では、新曲「バックファイア」のMVも撮影されたんですね?

雄貴:はい。「バックファイア」は、久しぶりに稚内で過ごした記憶から書いた曲で、僕自身の稚内への思い入れが強く現れている曲だったので、MVもここで撮影させてもらいました。

その「バックファイア」を含む、デジタルEP『13』が5月25日にリリースされました。

雄貴:今回の作品は「バックファイア」だけでなく、全体的に“稚内”を思い返して書いた曲が多くなっていて、こういう言い方はあまりしたくないんだけど、どちらかというと“原点回帰”に近い雰囲気になっていると思います。

DAIKI:演奏やアレンジの面でも、自分たちがバンドを始めた頃のような衝動や気持ちを再確認しようと取り組んでいて、いい意味で肩の力を抜きつつ、これまで経験してきたものをスムーズに発揮できた作品になっています。

和樹:新曲が5曲と、昨年リリースした「ホームラン」の全6曲なので、曲数自体は少ないですが、それを感じさせないくらい満足度の高い作品に仕上がっていると思いますので、ぜひ全編通して聞いてみてほしいです。

ちなみにEPのタイトル『13』には、どのような意味が込められているのでしょうか?

雄貴:今回、半分くらいの楽曲が出来上がったタイミングで、「死」にまつわる歌詞や曲が多くなってきているなって感じたんです。「死」といっても、「死ぬこと」ではなくて、「誰もが行き着く先」「たどり着く場所」として「死」を捉えているところがあって、そこに行き着くまでに何をするのか、何を考えるのか、どこを通っていくのかといったことを歌詞にしているんですね。そのときに和樹から以前に聞いた、タロットカードの13番目のカードが「死神」で、そのカードは逆向きになると「再生」「生まれ変わる」といった意味にもなるという話を思い出して。

「死」が逆さになると「生」になる?

雄貴:そうですね。「死」と「生」を表裏一体として捉える考え方には共感できるところがあって、実際、僕が書いた曲も「死」にまつわる曲に聞こえるけど、本来は「生きること」を考えて生まれた曲。「生」をテーマにした作品なんですね。だから、どちらの意味も併せ持つタロットカードの13番目のカードから、『13』というタイトルを付けさせてもらいました。

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次は、稚内で
ステージがしたい。

今回はMV撮影を行いましたが、今後は稚内でのライブも期待してしまいます。

和樹:できることなら「稚内総合文化センター」10のステージに立ってみたい。

雄貴:今回は改修中とのことで中には入れませんでしたが、聞いた話だと、僕がスピッツのライブを観たときとホールの見た目は変わらないとのことだったので、ぜひそこでライブをやってみたいね。

稚内でのライブが実現するとなると、いつ以来になりますか?

和樹:稚内港北防波堤ドームの前の北埠頭の広場でやったのが最後かな。

雄貴:でも、あれってドラムもカホンだったし、アコースティックライブだったから、バンドでしっかり音を出してって感じじゃなかったよね。

DAIKI:そうなると、最後にライブをしたのはデビュー前になるってこと?

雄貴:そうだね。遡ると、最後はライブハウスでもなくて、老人ホームのお祭りでトレーラーに設置された特設ステージで演奏したのが最後かも。

実現するなら、どんなステージにしたいですか?

雄貴:これは僕の勝手な思いですけど、僕らの楽曲のホーンをアレンジして、母校や市内の学校の吹奏楽部と一緒にステージに立てたらいいな。ライブを通して、僕らの音楽と街の音楽に何かしらのつながりが生まれたらうれしいですね。あと、大ホールのほかにも小ホール、リハーサル室などもあるので、そうした場所も使って、フェスみたいなこともできたら楽しそうですよね。

10稚内総合文化センター

1984年に開館して以来、市民から愛され続けている多目的文化施設。1293人収容の大ホールと350人収容の小ホールがあり、さまざまな催しが行われている。現在は工事中で、令和4年7月31日まで休館。

ACCESS: JR稚内駅から歩いて約5分

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稚内を
見つめ直すことができた。

今回の旅を終えて、改めて稚内という街にどのような思いを抱きましたか?

雄貴:懐かしさと同時に子どもの頃には感じなかった感動や感銘を受けることが多くて、こんな気持ちにさせてくれる場所だったんだなって再認識しました。さらに会う人会う人が僕たちを応援してくれていて、そうした人柄の温かさにも、僕らはここで育ってきたんだというのを改めて実感させてもらいました。まさに自分たちのルーツを探る時間を過ごせて、自分の中で稚内という場所が、より特別なものになったと感じています。

和樹:僕も自分たちしか知らないと思っていたような場所でも、改めて行くと思い出以外にたくさんの魅力が詰まっていることを知れて、とても有意義な旅だったと思います。

雄貴:あと、今回はなにより、僕らが暮らしてきた街をDAIKIくんと一緒に巡れたというのが、とても大きかったですね。稚内にはいろんな観光スポットがあるけど、僕は何気ない場所から見える風景も好きだし、ビュービューと強く吹く風の音も好き。それらを共有できて、しかも「すごい!」と共感してもらえたのが、本当にうれしかった。

DAIKI:おかげでかなり稚内に詳しくなれたよ。

雄貴:実を言うと今回、新作のリリースを控えていたこともあって、自分の中でモヤモヤとした気持ちや重たいものを背負っている感覚があったのですが、稚内に来て、そうした気持ちや感情がスッと軽くなっていったんですよね。稚内という街には、考えすぎていたことを溶かしてくれる、そんな魅力もあると思うんですよね。

そういえば、前編のインタビューで「稚内を見つめ直したい」と話していましたね?

雄貴:はい。僕にとって稚内は、まっさらのキャンパスのような存在といいますか、自分の中にあるものを出して並べられる寛容さ、広さを感じさせてくれる場所。だから、ここに住んでいたときには、学校から帰ったらとにかく曲を書きたくなって書いていていたし、歌ったり、ギターを弾いたり、衝動のままに行動することができたんですよね。ところが稚内を離れて、経験値や年を重ねていくうちに、自発的な気持ちよりも、やらなきゃいけないという気持ちの方が強くなってしまって・・・。それが今回、稚内を巡ったことですごく溶けていったというか、自分の中にあるものを出しやすい環境だったことを改めて実感できて、自分に足りないことも含めて、ちゃんと見つめ直せたなって思います。

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BBHFの新たな扉が
開いたと思う。

今回の稚内の旅は、BBHFの活動にどのような変化をもたらしてくれそうですか?

雄貴:僕は作品を生み出していくためには、心に余白を持っていることが大切だと思っているんですね。特に悲しみや苦しさといったネガティブな感情は、余白を持たずに全身全霊で感じちゃうと作品に落とし込んでいくことが難しくなってしまいます。今回の旅で、僕自身、心に余白を持つことができたので、この気持ちを大切に、曲を書いてみたいと思います。

DAIKI:僕も今回の旅を通して、曲に対しての理解度が変わりました。それにツアーで一緒に回っていても、常にライブのことを意識して緊張感をもって行動しているので、今回のようにライブのない状態で一緒に過ごしてきたことが実は今まであまりなかったんですよね。そういう意味でも今回の旅は新鮮な気持ちになれたことが多くて、これから3人でツアーに出るのもすごく待ち遠しくなりました。

何かBBHFの新しい扉が開いたようにも聞こえますね。

雄貴:そうですね。

和樹:後になって分かるんでしょうね。これから札幌に戻って、楽曲を作ったり、歌詞を書いたりするときに、僕らも初めて新しい尾崎雄貴を感じるんだと思う。どんな風になるのか、気が早いですが、今から楽しみです。

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最後に稚内の魅力について改めて教えてください。

雄貴:稚内にはたくさんの観光スポットがありますが、それよりも僕は、さっき話したように余白を与えてくれる、日本でも数少ない場所なんじゃないかと思うんです。ちょっと悩んでいるときや、ふと疲れたときには、稚内に来て、悩みも考え事も強い風で吹き飛ばしてもらう。何かを解決してくれるわけじゃないですが、そんな時間を過ごせる場所だと思います。僕みたいなモヤモヤしがちな人には、特にお勧めしたいですね。

和樹:稚内は食事が安いのも魅力だと思います。海産物も観光客でなく、市民に向けて提供しているお店が多いので、めちゃめちゃ美味しくてリーズナブル。食事をしにくるだけでも楽しい街だと思います。

DAIKI:今回、実際に稚内を訪れて一番に思ったのは、やっぱり来てみないと本当の姿は分からないってことでした。普段の街の人たちの営みや景観もそうだし、ゆったりと流れている時間やライフスタイルなどもパソコンやスマホの画面越しでは分からなかったこと。ここで感じられること、経験できる時間は、とても大切なものだと思いますし、そのための時間をつくることも大事だと思います。いろんなことが集約された街だと思いますので、ぜひ皆さんにも旅してもらいたいです。

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